山下氏は思い立ったように大きなカバンを漁りだした。古いA4版の大学ノートに“2004.5~2005.2 日記”と書かれている。
「大学院時代は日記を書いていた。恵子さんのことばかり書いていますよ」
ひらいて見せてくれた。女性のような丸みを帯びた文字で、週に2,3回の頻度で日記が綴ってある。所々に恵子さんへ向けてのメッセージが記述されていた。
2004.8.2
今度、貴方と一緒にデートに行きたいです。
今は修士論文を書いていて忙しいと思いますが、論文提出が終わるまで、そっと見守っています。
僕は恵子さんのことを応援しています。だから恵子さんも僕のことを応援してください。
僕は将来、恵子さんと結婚したいと思っています。僕は貴方だけを見つめています。だから貴方も私だけを見ていてください。
あなたは僕に光をくれた女性です。今まで出会った人の中で貴方だけ違って見えます。
蛍の光のように優しく光っています。
もし貴方が大学院でそのまま研究職をするのならば、僕もそのまま博士課程に進んでそして結婚できればいいなぁと思っています。そして無敵の夫婦になりたいです。二人ともすごく幸せになれると思います。
2004.9.7
恵子さん、こんなひ弱な僕をいつも見守ってくれてありがとう。僕はいつも恵子さんと話したりすると、気持ちが高ぶってしまうので、精神安定剤を飲んでいます。大学の保険管理センターでもらいました。それで、なんとかやっています。
僕は恵子さんが言った通り、博士課程に進まないで就職することにしました。やっぱり恵子さんが言っていたことは正しいと思いました。
僕が就職して、貴方も就職して、そしてそれから結婚して、私がたくさん稼いで――とか思います。たとえ、研究室の他の奴らに嫌われても、貴方がいるから僕は頑張れます。
この前、僕ができなかったこと、貴方がなにも言わずに手伝ってくれてすごく嬉しかった
タオバオ代行です。
恵子さんは猫好きでよく野良猫を可愛がっていますね。僕も猫好きです。一緒に住んだら猫を飼いたいです。そして愛し合いたいです。
たぶん、恵子さんとは前世で夫婦だったと思います。お互い似た者同士だし、波長が合うし。いつも僕は恵子さんを見ています。恵子さんもマンションの場所も把握しています。なんかストーカーみたいですね。
2004.11.12
もうすぐ、僕と恵子さんは就職で離れてしまいます。それは昔の特攻隊と女学生みたいな感じで、身を引き裂かれる思いです。
でも僕は必ず恵子さんと結婚できると信じています。もう恵子さん以外にありえません。僕はほかの異性を好きになることはありません。貴方が毎晩夢にでてきます。それで僕は毎晩幸せな気持ちになります。
僕は恵子さんとの思い出で一番楽しかったことは、研究室対抗のソフトボール大会で、貴方とキャッチボールして練習したことです。今度一緒にキャッチボールするときは、貴方と入籍してからだと思います。
恵子さんは横浜の研究室に行っちゃうけど、僕も関東に行けるように願っています。そして仕事して何年か経ってから結婚できればいいと思っています。
僕は自分の苗字が大嫌いです。だから早く恵子さんの苗字なりたいです。
僕はいつも貴方を見ています。貴方は僕から離れられないと思います。僕は貴方と結婚することを信じています。